事件発覚の翌日、日大ラグビー部が部長名で声明を発表した。
驚くべき内容だ。「学生ファースト」など程遠い声明である。

ヘッドコーチの行為は明確な犯罪(暴行罪・傷害罪)である
まず、これまで一般のメディアで確認された「ヘッドコーチの行為」について事実を整理する。
1、未成年に無理やり強い酒を飲ませて酔い潰した。
2、耳や顔に噛みついたり顔を蹴ったりした。
3、バーベキューの熱々のへらを押し付けてヤケドさせた。
4、頭に爪楊枝を7本刺し、抜く事を許さなかった。
もちろんこれらの行為は全て犯罪である。暴行罪、傷害罪が適用される。
飲酒の強制についても、傷害罪。さらに部員がアルコールを受け付けない体質で死に至れば傷害致死、となる。日本人は他民族と比べ、こうした体質の人が多いとされ、その可能性は十分にあった。

このほかネット上にはラインで「チクったやつ殺してー」「家族も追い込む」などの脅迫罪相当の行為も報じられるが今のところ「事実確認」は取れていなのでここでは触れない。
(以下、青字部分は原文からの引用です)

ということを踏まえて「声明文」を読み解く。
(最後に資料として読みやすい形で全文掲載してあります。)

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   この「黒地に白ヌキの字」という形態は何を意味するのか。

   なんにせよ「社会的常識」から逸脱していることは確かである

 「声明文」の表題に見えるもの
この声明の表題は
「当部元コーチの一部報道について」
つまりこれだけの問題が明るみになり、頭に爪楊枝が突き刺された凄惨な画像が公開されてなお、社会向けに発する声明の本題は「ヘッドコーチの暴力行為について」ではなく、「報道への反論・言いわけ」であるという事だ。
「ヘッドコーチの暴力行為」は付け足し。
部長や部当局にとって「この事件」とは何なのかがこの表題によく表れている。
もちろん自由な社会では「不当な報道」に対し、「正当な反論」をする自由は認められるべきである。
以下、この声明が「正当な反論」であるのかを見てゆく。

 まず「問題を直視しない宣言」で始まる

本文。
「お詫び」するのは以下の事。

「・・報道がなされました。このようにお騒がせしましたことを心よりお詫び申し上げます。」
日本社会でこのように「お騒がせした事をお詫びする」のは組織が不祥事あるいは犯罪行為に関わった場合の、その根本事象について直視せず、悪いとも思っていず「お詫びをする気など無い」時に用いる便利な常套句だ。つまり「報道や騒いだ世間がなければ詫びる内容などない」という意思表明に他ならない。
問題を直視していればお詫びするのは「ヘッドコーチの犯罪行為・傷害行為」についてであるはずである。そして長期間この暴行を放置してきた部としての責任。
もちろんお詫びの相手は被害部員、他のラグビー部員、保護者、ラグビー関係者、だろう。だがそうした文言は一切ない。

 「大学ファースト」の宣言

次に出るのが「コーチが大学と無関係であること」の表明。
「当該元コーチは、当部が外部より招聘し、コーチングの要請をしていたものであり、大学との間に雇用関係はありません。」
この犯罪の被害者・部員、あるいはラグビー関係者にとって元コーチが大学と雇用関係にあるのか否かなど全く問題ではない。
「雇用関係」が問題であるのは「日本大学当局にとって」だけだろう。つまりこの表明は「日大に責任はありません」という表明に他ならない。
まず声明の冒頭にこの表明がなされた事は、この事案に臨む基本姿勢が「大学ファースト」である事の宣言である。
さらにすでに公表されている「ヘッドコーチ」をあえて「コーチ」と呼称している事も部・大学の責任を少しでも小さくするための小細工であると考えられる。

 事実関係のスリカエ

「当該元コーチからのヒアリング等の調査を行った結果、当該元コーチは退任に値すると部長,監督で判断しました。」
この過程・判断は良い。
がこの後、実際に行われたのは部による「解雇」ではなく、「当該コーチの意思による、父親の介護のための退任」であった。
つまりコーチの犯罪とは無関係に「自己都合で辞めた」、とされたのだ。事実上「暴力行為により辞めさせた」にもかかわらず「自己都合で辞めた」と「犯罪を隠蔽」した。
にもかかわらず、犯罪が明るみに出るや、あたかも「部長・監督が辞めさせた」かのような声明文。

報道によれば平山部長はこうした経緯について以下のように述べている。
「事を荒立てて、これだけの問題が起こって辞めたとなった時、彼の将来がどうなってしまうのかというのもあり、そういう判断をした。」
被害者や部員、ラグビー界よりも、あるいは社会正義よりも「彼の将来」を優先事項とした事が明確に伝わる。
「大学ファースト」の次は「加害者セカンド」か。

 「部員作成の報告書」はどこへ行ったのか
こういう経緯を見れば、次に述べられた事実、
「部員による報告書は、(中略)当該部員より取下げの申し出がございました」
も、どういう経緯で「取り下げられた」のかは容易に推察できるだろう。
大学・コーチ・部当局の利益を優先させれば「部員の作成したコーチによる犯罪報告書」など葬られてしまったという事だ。
ご丁寧にもこの声明文では「一部報道で出ている部員による報告書」とされている。もはや部にとっては存在しない「報告書」という事だ。
私のような人間にとっては今回の件の「救い」は問題を明らかにしたのが部員であるという事だ。「文春砲」などの「すっぱ抜き」でもなく「関係者からメディアへのリーク」でもなく。
被害当時者である部員が社会ルールに則り報告書を作成して提出、問題化した。この部員(達?)の正当かつ勇気ある行動を讃えたい。
しかし「部当局」にとっては「あってはならないもの」だったのだろう。で、取り下げさせた。無かったものとなった。事実この報告書は一切公開されていない。
つまりこの1文は「今後この報告書を公開することはありません。もう無いものですから」という宣言であると解釈すべきだろう。

 「隠蔽」の否定
「報道の中には「隠蔽」という表現も使用されているものもありますが、部員による報告書内容は、部長の責任のもと、各学年単位でのミーティングにおいて共有され、監督より、保護者代表にも報告しております。」
「所管の日本大学競技スポーツ部にも逐次報告され」
この間の経緯について「部員・保護者」「日本大学競技スポーツ部」には説明したのだから「隠蔽」ではない、という。
そもそもこれまで述べたように事実関係すら正確に「部員・保護者・大学担当部署」に正しく説明したとは思われない。「内容は共有され」とはいうが「報告書そのものが原文で」提示されたとは言っていないのだ。
のみならず、この明白な「犯罪行為」を把握しながら公表せず事件化せず、ヘッドコーチの謝罪もなく、部内の処分もなされななかった事実がある。こうした事実は現代社会においては完全な「隠蔽」である。
そもそも部内でこれだけの事件があり責任を感じていれば「記者会見」があってしかるべきだろう。
あの「日大アメフト危険タックル」事件でも記者会見は行われた。
だがこの「声明」は「公式ホームページ」で公開されただけ。メディア向けですら無い。
もちろん一切の質問は受け付けていない。これも隠蔽の延長にある。
そもそも今回この事件が明るみなったのは、部のこうした対応に納得いかず「隠蔽」されたと考えた部員・保護者がメディアに情報提供した、と見るべきだろう。
つまり「被害者側」は間違いなく「隠蔽」と見た。当然である。

だが「加害者側」は胸を張って「隠蔽ではない」という。

 この部スタッフで再建・再発防止は可能か


この感覚で、最後に掲げる「再発の防止」などできるわけがない。まず「現状把握」があってこその「再発防止」だろう。現状把握はできていない、社会常識も身につけていない。
さらに恥ずかしげもなく「当部は学生ファーストの精神を掲げております」などと宣言する。
この声明文を見れば「学生ファースト」など程遠く、「大学」ファースト、「犯罪者コーチの将来」セカンド、「部長・監督の保身」サード、と言ったところか。
被害学生への配慮や謝罪など4番目にも出てこない。
彼らには被害学生やラグビー部員の痛みは全く見えていない。
もちろん我々ラグビーファンの痛みスポーツファンの痛みなど眼中に無い。

この声明で明らかになったように、部当局に自浄能力などとても期待できない。
大学当局も同様だ。
ここは再建に向け、協会が乗り出すべきでは無いのか。
このままでは部員があまりにもかわいそうだ。

 被害者である部員からラグビーを取り上げてはならない。だが。
この声明で唯一の救いは以下の文。
「部員の「ラグビーをする権利」を尊重すべく適切に活動を続けてまいります。」
これは良い。ぜひそうあってほしい。
被害者である部員からラグビーを取り上げないでほしい。
だがそれまでのこの声明文を読めば、この1文も私には。次のように読めてしまう。
「この件をこれ以上騒ぎ立てれば、部員がラグビーをできないような事態になるぞ」と。
つまり部員の「ラグビーをする権利」をダシに自分らの責任逃れ、事件の「曖昧決着」を企んでいる、と。
もちろん「ラグビーをする権利」と「この事件の問題点をしっかり検証する事」は全く別物である。部員がのびのびラグビーをする環境は整えつつ、暴力事件の検証は続けなければならない。
この事件、決着は全くついていない。

【余談】
冒頭で疑問視したこの声明の形態、「黒地に白ヌキ文字」について。
これは例えば交通事故を起こした人間が被害者宅に「お詫び」に訪れる時に、「白のスーツに黒のワイシャツ、花柄のネクタイ、サングラス」で現れたような「非常識さ」なのですね。
「お前、ホントに謝罪に来たのか」って。
その上、「世間をお騒がせした事をお詫びします」とか言われたら、私ならブチ切れるでしょう。

日大グラウンド







日大グラウンド(稲城)

【資料】声明全文

当部元コーチの一部報道について

この度、元日本大学ラグビー部コーチによる暴行行為等に関する報道がなされました。まずはこのようにお騒がせしましたことを心よりお詫び申し上げます。
まず、当該元コーチは、当部が外部より招聘し、コーチングの要請をしていたものであり、大学との間に雇用関係はありません。

今回の件は、本年1月に発生した元部員の不祥事をきっかけに、風通しの良いチームとして再建していくという強い意思の下、インテグリティチームマネージャーを配置しました。同マネージャーによるチーム再建の過程において、学生より報道されたような飲酒の強要や頭に爪楊枝を刺す等の暴行があったとの申し出があったことが判明したものです。当部としては、直ちに当該元コーチからのヒアリング等の調査を行った結果、当該元コーチは退任に値すると部長,監督で判断しました。

一部報道で出ている部員による報告書は、インテグリティチームマネージャーに提出された後、当該部員より取下げの申し出がございましたが、当部としては看過し得ないものと考え、先の対応に至った次第です。なお、報道の中には「隠蔽」という表現も使用されているものもありますが、部員による報告書内容は、部長の責任のもと、各学年単位でのミーティングにおいて共有され、監督より、保護者代表にも報告しております。

また、一連の経緯は、所管の日本大学競技スポーツ部にも逐次報告された結果、当部部長、副部長、監督、コーチは、同競技スポーツ部より厳重注意処分を受けております。

以上のとおり、今般の報道内容は、既に当部としても把握の上、適切に対応しているものでありますが、当部としては今回の事態を重く受け止め、同対応にとどまることなく、学生スポーツとしてのあるべき姿を実現すべく、日々の運営と指導をさらなる改革・改善を目指し、皆様の信頼を一日でも早く回復できるよう再発防止に向けて全力で取り組んでまいります。

また、当部は学生ファーストの精神を掲げております。現部員には新型コロナウィルスの感染拡大防止のため、一定の制限はあるものの、部員の「ラグビーをする権利」を尊重すべく適切に活動を続けてまいりますので、皆様にはご理解をいただけますよう何卒よろしくお願いいたします。

日本大学ラグビー部
部長 平山 聡司