おとぶろラグビー夜話

ラグビーに関するあれやこれや。

タグ:アイルランド

日本ラグビーは「平幕」なのか

「金星」「大金星」と大騒ぎだ。本当に「金星」なのか。
そもそも「金星」は相撲用語。「平幕力士が横綱に勝つこと」とある。
日本ラグビーは「平幕」なのか。

アイルランド戦











2015年W杯、「ブライトンの奇跡」以来の日本代表のテストマッチを振り返ってみる。(対アジアは除く)
手元の集計では先日のロシア戦まで28試合。14勝13敗1引き分け。このうち「ティア1」10カ国との勝敗は2勝12敗1分け。あの南ア戦のほか。イタリアに勝ち、フランスと引き分けている。
「テイア2」とは13戦全勝。
で、「番付」をどう見るか、だ。
「ティア2」を平幕と見れば、対平幕全勝。前頭筆頭以上の番付けと見て問題あるまい。小結と言えるか。
対「ティア1」、2勝12敗1分けはちと寂しい。
が、この中には大横綱南アの1勝がある。さらに点差はつけられたとはいえ、対NZで5トライを奪ったという実績もある、これは「ティア1」の国でもなかなか取れるトライ数ではない。
私としてはこうした実績から「日本小結」としたいところだ。がここは控えめに「前頭筆頭」としておこう。

ではアイルランドは「横綱」か。

確かに直前のランキングは1位。現在は2位。優勝候補の一角である強豪である事は間違いない。
だがランキングと番付は違う。これは相撲も同様だ。相撲にランキングはないが「横綱」は直前の成績に関係なく長年の実績がものをいう。しかも「陥落」はない。
こうしてみるとラグビー界の「横綱」といえばNZ・南ア・オーストラリアの3横綱で文句はないだろう。
優勝回数はNZ3回、南ア・オーストラリア2回ずつ。
イングランドは優勝があるが準優勝なし、前回自国開催時はプール戦敗退、これでは「横綱」とは言えない。

さてアイルランド。
W杯ベスト8が6回。それ以上の成績はなし。もちろん優勝は無い。「横綱」など程遠い。
相撲の世界でもあの北尾「双羽黒」は優勝なしで横綱、優勝なしで引退したが、それをここで持ち出してももちろん意味は無い。
最近のランキングを加味してもアイルランドは「大関」が精一杯。「関脇」が順当なところではないか。
つまり今回の結果、日本がアイルランドを破ったのは、前頭筆頭力士が関脇を、せいぜいが大関を破ったというところだ。「殊勲賞」モノ、番狂わせではあるが「金星」などでは決してない。
もちろん「言葉」というもの、特に他ジャンルからの借用の場合厳密すぎる必要はないだろう。例えば相手が「大関」であっても、これを「平幕下位」の力士が破れば他ジャンルの場合メデイアが「金星」と呼んでも目くじら立てるつもりはない。
だが今回の場合明らかな「幕内筆頭」力士がせいぜい「大関」を破ったということだ。これは絶対に「金星」などではない。

「金星」をあげるには」「弱者」でなければならない

私はもちろん今回の勝利にケチをつけているのではない。
「真逆」である。
つまり「金星」などと言われるのは勝者が、地力も実績も、時には将来性ももない「弱者」の場合に「のみ」使われる言葉である、ということだ。
ラグビーには「番狂わせ」は基本無い。絶対的「弱者」が「強者」を倒す事は無い、という事だ。
4年前、「横綱」南アに勝った。この時の日本は間違いなく「平幕」、この勝利は文句なしの「金星」と言える。 が、その後対「ティア2」全勝、NZから5トライを奪う日本が「絶対的弱者」に当てはまるか。断じて違う。と言い切れるだろう。
地力があり実績を積み将来性のある「新鋭」が大関を破った。
それだけのことなのだ。

この試合、日本は結構「不運」だった
もう一つ。「金星」という言葉が持つ「両者の地力の差」という概念を考えると、どうしても「弱者に運が味方した」感がつきまとう。この試合の日本は幸運だったのか。
いや、むしろ不運だった。
前半3分、ラファエレのインゴールへのゴロパント。
松島が追う。絶妙のバウンドで転がる。蹴ったラファエレも追う松島も、そして観戦する我々も、少しでもラグビーボールと関わったことがある者なら全員思ったはずだ。
松島が追いついた瞬間、ボールがポーンと跳ね上がって松島に収まる、と。
ところがその瞬間、ボールは下に、コースも遅れてきたアイルランド選手側に。
このプレイが「普通に」トライになっていたら試合はさらに有利に展開していたとも思える。大差がついていたかも。
選手起用も不運だった。J.ジョセフが絶大な信頼を置くトゥポウが直前に離脱、開始早々には「切り札」マフィも負傷離脱。ゲームプランはすっかり狂った。不運だった。
しかし勝った。
(アイルランドもセクストンを欠くという「不運」はあったがここでのテーマは「金星」なので「格上」の事情は省く。)

「金星」報道は誤用である。

地力の差も「横綱と平幕」では無い。運も味方していない。
よって私は「金星」報道は誤用であると断言しておく。

つまり今回の「金星報道」、日本ラグビーが「弱小国」であることを前提に書かれているのだ。まあ「頭の固い」海外「ラグビー先進国」のメデイアがいつまでたってもどれだけ実績を積んでも日本を「弱小国扱い」するのはまあいい。「シズオカの奇跡」などと呼ぶのも楽しい。
しかし日本のメデイアまでが、いや日本の一般ファンまでがいつまでも日本を「弱小国」として感じ、「大金星」などと大喜びするのはいかがなモノか、と私は思う。
これでは選手が報われない。
リーチキャプテンが言っているように選手・スタッフは常に勝つつもりで、つまりはいかなる相手にも「互角・対等」であると信じているからこその、そしてそう信じるに足る確かな裏付けがあってこその今回の勝利だったのだ。
選手の「意識・現実」とファン・メデイアの「意識」との乖離。

「平幕優勝」への期待

さて次の楽しみは平幕日本がどこまで勝ち進むか、だな。
勝ち進めば当然「真の3横綱」とどこかで、あるいは複数回当たるだろう。これを平幕日本が倒せばこの時こそ「金星」だ。
そして待っているのは、相撲界ではまれにある「平幕優勝」。
この、ラグビー史上初の「平幕優勝」の快挙を日本が成し遂げるか、がこの大会の今後の最大の楽しみであるということだ。
ファンたる者、このくらいの事を語らないでどうする。

アイルランド代表











国境を超えたアイルランド代表チーム
5月に「NHKサンデースポーツ」で放送されたアイルランド取材。「国境を超えた代表チームとラグビーアンセム〈アイルランズ・コール〉」。
この企画、とても良かった。
一般の人が知らない、もしかしたらラグビーファンでも知らない「アイルランド代表」の真実を、私の知る限り初めてメジャーなTV番組で取り上げたものだった。 いやすでに知っていた人にとっても、映像つきでメインキャスターが取材に行くという企画が素晴らしい。

ざっと説明すると、アイルランド島は政治的国境としては英国からの独立を果たした「アイルランド共和国」と「英国内の北アイルランド」が存在する。
アイルランド当然「別の国家」である。それのみならず、この地域では宗教的対立等により内戦・テロが絶えなかった。互いの
家族や友人が多数殺されてきた歴史。世界的常識においては「憎しみの連鎖・報復の応酬」が起こって当然の中、ことラグビーにおいては、「アイルランド代表」としてチームを組む。もちろん統一「国歌」など存在しない。よってラグビー代表だけのための「ラグビーアンセム」が作られた。ラグビーにおいては歴史的憎悪、政治的対立を超え、「アイルランド人」としてともに歌い戦う。

キャスターの大越健介氏は番組をこうシメていた。
「これぞラグビーの素晴らしさ、スポーツの素晴らしさですね。」
えっ、このシメは事実と違うだろう。
スポーツの素晴らしさ?

サッカーの英国内ネイションは国境を超えない
ラグビーと同様、サッカーも、オリンピック以外では国際試合で英国「ユナイテッド・キングダム(U.K.)ではなく「英国内ネイション、イングランド・ウェールズ・スコットランド」とアイルランドとして戦う。しかしサッカーにおいてはアイルランドは、国境を挟んで「アイルランド共和国」と「北アイルランド」2代表が存在し、一つのチームではない。
つまりサッカーの事情はこの特集のテーマとは明らかに反する。「スポーツの素晴らしさ」と一括りにする表現は当たらないだろう。

スポーツで「国境を越え」ればいいってもんじゃない
一方スポーツで「国境を超えた代表チーム」といえば平昌オリンピックの女子アイスホッケーで、急遽、韓国・北朝鮮の「南北合同チーム」が組まれたという「事件」があった。
が、これも「政治的国境をスポーツが超えた」というアイルランドラグビーの精神とは明らかに似て非なるものであると言える。この場合、「政治によるスポーツ利用」「政治パフォーマンスにスポーツが利用された」と見るべきだろう。しかもオリンピック開催の20日あまり前に「例外的に認められた」北朝鮮の参加、そして「合同」などという完全なルール無視の暴挙・愚挙であった。スポーツ・オリンピック、選手・コーチ、対戦相手、ファン、全てを愚弄するものであった。

「政治的国境を越えて代表チームを組む」アイルランドラグビーのような例は他国には無く、世界一の人気スポーツ、サッカーなどでは決して見られるものではなく、「スポーツの素晴らしさ」と言うべきものではない。
これぞ、ラグビー「ならではの」素晴らしさなのだ。
いや、ラグビーあるところ常に「政治的国境を超える」わけではもちろんない。
南北朝鮮統一ラグビー代表などもちろん存在しないし。
つまりもっと正確には「アイルランドラグビーの素晴らしさ」と言うべきか。

追記〉クリケット・フィールドホッケーもアイルランド統一チームがあるという。 スポーツと一口に言っても世界的メジャースポーツ以外にもあり、それぞれの文化があるのだろう。その上でアイルランドという特殊な地域の事情は簡単には解釈できないようです。


「勝たねばならない理由」を持つ者の「実力を超える強さ」

ちょっと脇道にそれる。
70年代、ボクシングヘビー級で圧倒的強さ・破壊力を誇ってチャンピオンに君臨していたジョージ・フォアマン。全盛期の彼を倒したのは年齢的に盛りを過ぎたモハメド・アリだった。アリは「ベトナム戦争の懲役拒否」で無敗のままチャンピオンを剥奪されていたのだ。マルコムX率いる黒人解放運動にも深く関わっていた。「カシアス・クレイ」という「奴隷名」を捨て、「白人にあてがわれたキリスト教」をも捨て、イスラム教徒に改宗、名前も変えたのはもちろんこうした「政治的思想」による。
チャンピオン剥奪ももちろん単に「兵役拒否」だけでなく、こうした「反白人主流主義」への「報復でもあった。
アリ2














懲役拒否の無罪判決後ボクシングに復帰。そしてアフリカ・「キンシャサの奇跡」で3年7か月ぶりに王座に復帰。
敗れたフォアマンは後にコメントしている。
「アリには勝たねばならない理由があった。私にはそれがなかった。」


世界ランク1位のNZ、2位のアイルランドを支えるもの
さてもちろん現在アイルランドは、強い。

NZについで世界ランク2位!
世界で最も異民族尊重が進むNZが世界ランク1位。
世界で唯一国境を超え代表チームを組むアイルランドが2位。
こういう現象がラグビーにおいて存在していることは記しておきたい。
そういう「特別な事情」「特別な思い」が込められた「代表チーム」には、他にはない「絶対に負けられない理由」が存在する。
アイルランド代表。実力ももちろんだが、その実力をさらに倍加させる「理由」がある。
もちろんこうした「国境を越え、負の歴史を超えた」アイルランド代表のあり方に選手、「両国民」が全員賛同しているかは不明だ。不満を抱えつつ代表でプレイする選手もいるかもしれない。だが、であるからこそ「絶対に負けられない」との思いもまた大きくなるだろう。
手強いぞ。アイルランド代表。

オマケ
引退したフォアマンはその後キリスト教伝道師となる。そして教会建設の資金稼ぎのため、貧しい子に夢を与えるため、現役に復帰。45歳で奇跡のチャンピオン復帰を果たす。
この時のフォアマンには「勝たねばならない理由」が存在したのだろう。

意外なオマケ

ところでモハメド・アリら「黒人」は最近では「アフリカ系」と言われる。
だが米国の「黒人」のほとんどはまた「白人」の血も引いている。
モハメド・アリはアイルランドの血も引いている「アイルランド系」でもあるという。






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