
国境を超えたアイルランド代表チーム
5月に「NHKサンデースポーツ」で放送されたアイルランド取材。「国境を超えた代表チームとラグビーアンセム〈アイルランズ・コール〉」。
この企画、とても良かった。
一般の人が知らない、もしかしたらラグビーファンでも知らない「アイルランド代表」の真実を、私の知る限り初めてメジャーなTV番組で取り上げたものだった。 いやすでに知っていた人にとっても、映像つきでメインキャスターが取材に行くという企画が素晴らしい。
ざっと説明すると、アイルランド島は政治的国境としては英国からの独立を果たした「アイルランド共和国」と「英国内の北アイルランド」が存在する。
当然「別の国家」である。それのみならず、この地域では宗教的対立等により内戦・テロが絶えなかった。互いの家族や友人が多数殺されてきた歴史。世界的常識においては「憎しみの連鎖・報復の応酬」が起こって当然の中、ことラグビーにおいては、「アイルランド代表」としてチームを組む。もちろん統一「国歌」など存在しない。よってラグビー代表だけのための「ラグビーアンセム」が作られた。ラグビーにおいては歴史的憎悪、政治的対立を超え、「アイルランド人」としてともに歌い戦う。キャスターの大越健介氏は番組をこうシメていた。
「これぞラグビーの素晴らしさ、スポーツの素晴らしさですね。」
えっ、このシメは事実と違うだろう。
スポーツの素晴らしさ?
サッカーの英国内ネイションは国境を超えない
ラグビーと同様、サッカーも、オリンピック以外では国際試合で英国「ユナイテッド・キングダム(U.K.)ではなく「英国内ネイション、イングランド・ウェールズ・スコットランド」とアイルランドとして戦う。しかしサッカーにおいてはアイルランドは、国境を挟んで「アイルランド共和国」と「北アイルランド」2代表が存在し、一つのチームではない。
えっ、このシメは事実と違うだろう。
スポーツの素晴らしさ?
サッカーの英国内ネイションは国境を超えない
ラグビーと同様、サッカーも、オリンピック以外では国際試合で英国「ユナイテッド・キングダム(U.K.)ではなく「英国内ネイション、イングランド・ウェールズ・スコットランド」とアイルランドとして戦う。しかしサッカーにおいてはアイルランドは、国境を挟んで「アイルランド共和国」と「北アイルランド」2代表が存在し、一つのチームではない。
つまりサッカーの事情はこの特集のテーマとは明らかに反する。「スポーツの素晴らしさ」と一括りにする表現は当たらないだろう。
スポーツで「国境を越え」ればいいってもんじゃない
スポーツで「国境を越え」ればいいってもんじゃない
一方スポーツで「国境を超えた代表チーム」といえば平昌オリンピックの女子アイスホッケーで、急遽、韓国・北朝鮮の「南北合同チーム」が組まれたという「事件」があった。
が、これも「政治的国境をスポーツが超えた」というアイルランドラグビーの精神とは明らかに似て非なるものであると言える。この場合、「政治によるスポーツ利用」「政治パフォーマンスにスポーツが利用された」と見るべきだろう。しかもオリンピック開催の20日あまり前に「例外的に認められた」北朝鮮の参加、そして「合同」などという完全なルール無視の暴挙・愚挙であった。スポーツ・オリンピック、選手・コーチ、対戦相手、ファン、全てを愚弄するものであった。
「政治的国境を越えて代表チームを組む」アイルランドラグビーのような例は他国には無く、世界一の人気スポーツ、サッカーなどでは決して見られるものではなく、「スポーツの素晴らしさ」と言うべきものではない。
これぞ、ラグビー「ならではの」素晴らしさなのだ。
いや、ラグビーあるところ常に「政治的国境を超える」わけではもちろんない。
南北朝鮮統一ラグビー代表などもちろん存在しないし。
つまりもっと正確には「アイルランドラグビーの素晴らしさ」と言うべきか。
〈追記〉クリケット・フィールドホッケーもアイルランド統一チームがあるという。 スポーツと一口に言っても世界的メジャースポーツ以外にもあり、それぞれの文化があるのだろう。その上でアイルランドという特殊な地域の事情は簡単には解釈できないようです。
「勝たねばならない理由」を持つ者の「実力を超える強さ」
ちょっと脇道にそれる。
70年代、ボクシングヘビー級で圧倒的強さ・破壊力を誇ってチャンピオンに君臨していたジョージ・フォアマン。全盛期の彼を倒したのは年齢的に盛りを過ぎたモハメド・アリだった。アリは「ベトナム戦争の懲役拒否」で無敗のままチャンピオンを剥奪されていたのだ。マルコムX率いる黒人解放運動にも深く関わっていた。「カシアス・クレイ」という「奴隷名」を捨て、「白人にあてがわれたキリスト教」をも捨て、イスラム教徒に改宗、名前も変えたのはもちろんこうした「政治的思想」による。
チャンピオン剥奪ももちろん単に「兵役拒否」だけでなく、こうした「反白人主流主義」への「報復でもあった。

懲役拒否の無罪判決後ボクシングに復帰。そしてアフリカ・「キンシャサの奇跡」で3年7か月ぶりに王座に復帰。
敗れたフォアマンは後にコメントしている。
「アリには勝たねばならない理由があった。私にはそれがなかった。」
世界ランク1位のNZ、2位のアイルランドを支えるもの
さてもちろん現在アイルランドは、強い。
NZについで世界ランク2位!
世界で最も異民族尊重が進むNZが世界ランク1位。
世界で唯一国境を超え代表チームを組むアイルランドが2位。
こういう現象がラグビーにおいて存在していることは記しておきたい。
そういう「特別な事情」「特別な思い」が込められた「代表チーム」には、他にはない「絶対に負けられない理由」が存在する。
アイルランド代表。実力ももちろんだが、その実力をさらに倍加させる「理由」がある。
もちろんこうした「国境を越え、負の歴史を超えた」アイルランド代表のあり方に選手、「両国民」が全員賛同しているかは不明だ。不満を抱えつつ代表でプレイする選手もいるかもしれない。だが、であるからこそ「絶対に負けられない」との思いもまた大きくなるだろう。
手強いぞ。アイルランド代表。
オマケ
引退したフォアマンはその後キリスト教伝道師となる。そして教会建設の資金稼ぎのため、貧しい子に夢を与えるため、現役に復帰。45歳で奇跡のチャンピオン復帰を果たす。
この時のフォアマンには「勝たねばならない理由」が存在したのだろう。
意外なオマケ
ところでモハメド・アリら「黒人」は最近では「アフリカ系」と言われる。
だが米国の「黒人」のほとんどはまた「白人」の血も引いている。
モハメド・アリはアイルランドの血も引いている「アイルランド系」でもあるという。
が、これも「政治的国境をスポーツが超えた」というアイルランドラグビーの精神とは明らかに似て非なるものであると言える。この場合、「政治によるスポーツ利用」「政治パフォーマンスにスポーツが利用された」と見るべきだろう。しかもオリンピック開催の20日あまり前に「例外的に認められた」北朝鮮の参加、そして「合同」などという完全なルール無視の暴挙・愚挙であった。スポーツ・オリンピック、選手・コーチ、対戦相手、ファン、全てを愚弄するものであった。
「政治的国境を越えて代表チームを組む」アイルランドラグビーのような例は他国には無く、世界一の人気スポーツ、サッカーなどでは決して見られるものではなく、「スポーツの素晴らしさ」と言うべきものではない。
これぞ、ラグビー「ならではの」素晴らしさなのだ。
いや、ラグビーあるところ常に「政治的国境を超える」わけではもちろんない。
南北朝鮮統一ラグビー代表などもちろん存在しないし。
つまりもっと正確には「アイルランドラグビーの素晴らしさ」と言うべきか。
〈追記〉クリケット・フィールドホッケーもアイルランド統一チームがあるという。 スポーツと一口に言っても世界的メジャースポーツ以外にもあり、それぞれの文化があるのだろう。その上でアイルランドという特殊な地域の事情は簡単には解釈できないようです。
「勝たねばならない理由」を持つ者の「実力を超える強さ」
ちょっと脇道にそれる。
70年代、ボクシングヘビー級で圧倒的強さ・破壊力を誇ってチャンピオンに君臨していたジョージ・フォアマン。全盛期の彼を倒したのは年齢的に盛りを過ぎたモハメド・アリだった。アリは「ベトナム戦争の懲役拒否」で無敗のままチャンピオンを剥奪されていたのだ。マルコムX率いる黒人解放運動にも深く関わっていた。「カシアス・クレイ」という「奴隷名」を捨て、「白人にあてがわれたキリスト教」をも捨て、イスラム教徒に改宗、名前も変えたのはもちろんこうした「政治的思想」による。
チャンピオン剥奪ももちろん単に「兵役拒否」だけでなく、こうした「反白人主流主義」への「報復でもあった。

懲役拒否の無罪判決後ボクシングに復帰。そしてアフリカ・「キンシャサの奇跡」で3年7か月ぶりに王座に復帰。
敗れたフォアマンは後にコメントしている。
「アリには勝たねばならない理由があった。私にはそれがなかった。」
世界ランク1位のNZ、2位のアイルランドを支えるもの
さてもちろん現在アイルランドは、強い。
NZについで世界ランク2位!
世界で最も異民族尊重が進むNZが世界ランク1位。
世界で唯一国境を超え代表チームを組むアイルランドが2位。
こういう現象がラグビーにおいて存在していることは記しておきたい。
そういう「特別な事情」「特別な思い」が込められた「代表チーム」には、他にはない「絶対に負けられない理由」が存在する。
アイルランド代表。実力ももちろんだが、その実力をさらに倍加させる「理由」がある。
もちろんこうした「国境を越え、負の歴史を超えた」アイルランド代表のあり方に選手、「両国民」が全員賛同しているかは不明だ。不満を抱えつつ代表でプレイする選手もいるかもしれない。だが、であるからこそ「絶対に負けられない」との思いもまた大きくなるだろう。
手強いぞ。アイルランド代表。
オマケ
引退したフォアマンはその後キリスト教伝道師となる。そして教会建設の資金稼ぎのため、貧しい子に夢を与えるため、現役に復帰。45歳で奇跡のチャンピオン復帰を果たす。
この時のフォアマンには「勝たねばならない理由」が存在したのだろう。
意外なオマケ
ところでモハメド・アリら「黒人」は最近では「アフリカ系」と言われる。
だが米国の「黒人」のほとんどはまた「白人」の血も引いている。
モハメド・アリはアイルランドの血も引いている「アイルランド系」でもあるという。
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